『警官の血』 佐々木譲

2008/02/05 (火)  カテゴリー/小説(一般書)

 復員した安城清二は妻と生まれてくる子どものために、大量に募集の出ていた警官になる。宇都宮から出て来た香取、若い窪田、そして軍人だった早瀬とは同室となったことが縁で、その後も連絡を取り合う仲となった。清二が上野公園前派出所に配属されたとき、ミドリという男娼が扼殺される事件が起きる。浮浪者同士の諍いと思われたが犯人は見つからない。昭和28年若い国鉄職員が殺されるが、同じように犯人は見つからなかった。しかし近所で起きた事件だったことから、清二は近所で話を聞き始める。やがて念願かなって天王寺駐在所勤務となった清二だったが、近所の五重塔で火災が起きた夜明け、清二は礫死体となって発見された。
 清二の息子・民雄は父の同期3人の援助を受け無事高校を卒業し、警官となった。警察学校に入って間もなく、民雄の成績に目を付けた公安部は彼を引き抜き、学生運動の活発な北大へ彼を潜入させる。スパイとしての任務を果たした民雄だったが、神経を病み不安神経症から立ち直れず、家庭は崩壊寸前の状態となる。しかし以前の父と同じ天王寺駐在所勤務となり、彼は父が調べていたお宮入り事件をもう一度調べ始める。そして一つの真実に行き当たったものの、少女を人質に立て篭った男に撃たれてしまう。
 民雄の息子・和也は叔父・正紀の支援を受け大学を卒業し、警官となった。捜査員を希望していたが、暴力団担当の捜査員の内偵を命じられる。その内偵をしながら、彼は父が探っていた祖父の事件のことを気にかけていた。そしてついに、火災の夜の事実が明らかになっていく。

 『制服捜査』あたりから俄然気になっていたのですが、「いつか、いつか」と思いつつ利用者の方に薦められ、とりあえず読んでみましたが大変面白かったです。このミス1位でしたが、トリックとかそんなの一切ナシ。そして日本の戦後と安城の男たちの人生が重なって、戦後史を読んでいるような。文章も淡々としていて、ムダな装飾が一切ありません。ただ清二が火災現場を離れ、礫死体となって発見された理由を探そうとするミステリで、逆にそれを解きあかすことに取り憑かれた家族の物語でもあると云いますか…。
 清二は戦後の貧しい時代の善良な警察官といった風情です。第2部の民雄の物語から様相が変わってくるのです。暗い!戦後は貧しくとも明るかったように見えたのに!学生運動の激しい時代に北大に潜り込み、見事に成功させるスリル、そしてそれに神経をすり減らし家庭内暴力を振るうようになってしまうあたり、まるでベトナム帰りのアメリカ兵のような悲劇…そして父の暴力のせいで一歩下がった冷静さを持つ和也が解きあかす祖父と父の罪。自分たちは清廉潔白な警察官だったはずなのに突きつけられる矛盾…そしてそれで全てが終わらないのですよ!彼はそこで「切り札」を持ったのです、彼が「清廉潔白な警察官」であるための、大事な切り札を!これが私の中では一番のどんでん返しでした。
 でも登場する警察官には彼等なりの正義感があり、彼等の信念に基づいて行動してるので、誰も彼も責められない。そしてそれは「時代」が生み出したものでもある。時代に残る大作ではないかもしれませんが、時代を描いた秀作であることは間違いないと思います。
 これを一通り読み終わると、横山秀夫の世界がしっくり来ます。警察の時代史には『警官の血』と横山秀夫作品でシメることができますね。そうか、今の警察はこういう流れで出来たのかと思えます。それがいいのか、悪いのかは分かりませんが。


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